『アノニム』|原田マハ

小説
蒔

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今回は原田マハさんの小説、『アノニム』をご紹介します。

『アノニム』は、学生運動の機運が高まる香港を舞台にして描かれる、現代アートをモチーフにした小説です。
アートをモチーフにした作品を数多く発表している原田マハさんですが、現代アートをテーマにした作品は少なく、新鮮でした。

「現代アート」と聞いて、皆さんどんなイメージが浮かびますか?
「奇抜」?「正直よく分からない」?

私が初めて「現代アート」と意識して見た作品は、アンディ・ウォーホル作「キャンベル・スープ」でした。
赤と白のスープの缶がたくさん並んだ、あの絵です。

何でもかんでもアートって言ってしまえばアートになるんじゃないの?だってスープ缶だよ、というのが当時の正直な感想でした。(失礼な話ですが)

私と同じように「現代アートが今一つピンとこない」という方、『アノニム』を読んだら、ちょっと新しい見方ができるかも!

ざっくりあらすじ

香港で開催されるオークション会場に、真矢美里と凄腕揃いの仲間たちが潜入する。
オークションの目玉は、ジャクソン・ポロック作「ナンバー・ゼロ」。

一方、自らを「天才アーティスト」と信じている高校生、英才(インチョイ)。アートに理解のない両親や、うまくいかないクラスメイトとの関係にうんざりしながら、密かに創作活動に励んでいた。

そんな英才のもとに、「アノニム」という人物からメッセージが届く。
「アノニム」と英才の出会いは、アートは、世界を変えるのか?

感想

まず特筆すべきは、読みやすさとリアルタイム感。
「Sunday October 1 1:08AM」というように、分刻みの短い章が連なっていて、場所と視点が切り替わるので、まさに自分がそこにいるかのような感覚になります。

イラスト付きの登場人物紹介といい、会話やチャットの多さといい、臨場感たっぷりに読める仕掛けがたくさんあって、それでいてストーリーの深さを損なわないのが凄い。

普段あまり本を読まない方も、よく読む方も、楽しめる書き方だと思います。

そして内容について。
ストーリーの面白さはぜひ読んでみて体感していただきたいので、本作を読んでアートについて考えたことを書いてみます。

アート作品はどれも、作り手の何かしらの思いが表現されたもの。
だから、受け手に思いが伝わればその人の何かが変わるかもしれないし、多くの人が共感すれば世界も変わるかもしれない。

そして裏を返せば、「よく分からない」作品があるのも当然で自然なことなんだと思います。
他人の気持ちを理解はできたとしても、必ずしも共感できるとは限らないから。

無理に「美しい」、「意義がある」、とかジャッジせずに、面白がって見てみると、アートってより気楽に楽しめるかも!
そんな風に、私の中のアートの地平線を広げてくれた作品でした。

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