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今回は、ジェイムズ・リーバンクスさんの作品、『羊飼いの暮らし』をご紹介します。
著者はイギリスの現役羊飼い。
イギリス湖水地方に伝わる、伝統的な牧畜のあり方を、今も守り続けています。
日本ではなじみの薄い羊飼いという仕事の豊かさ、過酷さをリアルに伝えてくれる本書。
羊飼いの世界、覗いてみませんか?
ざっくりあらすじ
イギリス湖水地方の東部に位置する、600年以上の歴史を持つ農場。
短い穏やかな夏、競売市で賑わう秋、羊たちを守るため闘う冬、新たな命が生まれる春。
この地で生まれ育ち、現在もファーマーとして働く著者が、農場の伝統と今を綴る。
感想
羊飼いという職業、どんなイメージがありますか?
私は正直、よく知らない、というのが本音でした。
同じように感じる方も多いのでは。
それもそのはず、令和3年度に国内で飼育されていた羊の頭数は約2万頭、戸数にして947戸(参考1)。
令和4年度に牛(肉牛・乳牛)が約398万頭、豚が約895万頭(参考2)飼育されていたのに比べると、非常に少ないんです。
文化的・歴史的背景が影響しているようですが、その話はまたの機会に。
そんなわけで、私の羊飼いの知識は、ほぼゼロでした。
本書を読み終えた今、羊飼いのイメージを端的に言うならば…
「タフな辣腕ビジネスマン」。
凄まじい猛吹雪の中、山のあちこちにいる羊たちに餌を届けて回る姿は、超人的にタフ。
私が10人いても太刀打ちできそうにない。
そして、競売市に出す羊の準備をする姿には、経営者としての一面が見えます。
羊の性質を考えながら交配させ、成長の様子をデータ化する。
優れた羊を選り抜き、市場の好みに合わせて外見を整える。
羊の売買をするときにはもちろん、繊細な価格交渉をします。
以下は何と、著者がわずか9歳のときのエピソード。
予想通り、ジーンは、小さい羊になどまったく興味を示さなかった。いちばん立派な羊を手に入れる、とすでに心は決まっていたのだ。そこで私は、わざわざ無理してまで売る必要はないという印象を与えようとした。このまま農場で育ててもいいんだ、と。それから一時間ほど、私たちはほかの選択しを探り合い、学校や天気の話を挟み、別の羊の価格交渉をしては決裂を繰り返した。やがて、彼女がもともと欲しがっていた立派な羊の交渉へと戻ってきた。そこで私は言った。「ほかの人も欲しがっていて、そちらの人は価格のことはうるさく言わないんだけど…」
ジェイムズ・リーバンクス『羊飼いの暮らし』早川書房
幼いころから、祖父や父といった先達の背中をみているからこその交渉術。
まさに、伝統のなせる業。
使われすぎてありがたみが薄れている感もある、伝統という言葉。
本書を読んで、その意味を、再認識しました。
ある地方の牧畜が失われるということは、その場所で生計を立てる技術が失われること。
つまり、いずれは人が住めなくなって、その土地自体が全く変わってしまうことを意味する。
伝統というのはただノスタルジーで守られるものじゃなく、人が生きる術の多様性を守る、ということなんだと思います。
それならば、私が守れるものは何だろう、と考えてみたくなります。
参考1:めん羊・山羊をめぐる情勢 令和4年6月 農林水産省
参考2:畜産統計(令和4年2月1日現在) 農林水産省
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