『新釈 走れメロス』|森見登美彦

小説
蒔

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今回は森見登美彦さんの作品、『新釈 走れメロス』をご紹介します。

明治から昭和の文豪たちの作品を、現代京都を舞台に「新解釈」した短編集です。
教科書などで原作を読んだことがある方も多いのではないでしょうか。

各作品のタイトルを見て、「読んだことあるな」「あんまり好きじゃなかった」と思った方。
この短編集を読んだら、原作への見方も変わるかもしれません。

森見さん独特の言葉遊び、気の抜けるような笑い、そして散りばめられた「桃色」…
舞台も時代も原作とかけ離れているのに、原作の核心(っぽい部分)はそのまま伝わってくる、不思議さ!

各作品は実は微妙につながりあっています。
短編集でありながら、全て読むと登場人物たちの新たな側面が浮かび上がってくる、二度おいしい仕掛けです。

それぞれの作品のタイトルページ裏には、原作の概要が記載されています。
よく見ると、著者の他の作品の登場人物もちょこちょこ顔を出していたりします。
『新釈 走れメロス』が気に入ったら、原作や著者の作品もぜひ読んでみてください!

「山月記」

ざっくりあらすじ

長すぎる大学生活のすべてを執筆活動に賭している、斎藤秀太朗。
未だ誰も見たことのない彼の長編小説は果たして、実在するのか…
孤高の天才の煩悶を描き出す。

感想

原作の中島敦著『山月記』は、高校の教科書の多くに収録されている作品。
主人公の李徴が虎になり、友人である袁傪と再開するシーンが印象に残っている方も多いと思います。

森見バージョンの「山月記」でも、原作の寂しく物悲しい印象はそのまま。
収録作品中で最もしんみりした気持ちにさせられました。

「藪の中」

ざっくりあらすじ

学園祭で上映された映画には、ある噂があった。
出演者、監督、それぞれの独白によって「真実」が語られていくが…

感想

「事実は一つしかない、しかし真実は人間の数だけある…」なんてことを考えながら読みました。
全員が率直に話しているようなのに、全体としては煙に巻かれたような感じがする、不思議な味わいの作品です。

「走れメロス」

ざっくりあらすじ

友人との約束を守るため奔走したメロス。
一方、現代京都のメロスたる主人公芽野は、自堕落な生活を送る大学生だった。
彼は一体何と戦い、何のために走るのか?

感想

芽野は激怒した。必ず邪知暴虐の長官を凹ませねばならぬと決意した。

森見登美彦『新釈 走れメロス』株式会社KADOKAWA

原作が持っているスピード感そのままに、冒頭から「森見節」がさく裂。
森見さんの作品はリズムと音が読んでいて気持ちよく、現代版の落語のような感じがします。

どんなあほらしい状況でも、至って真面目に京都の町を駆け回る主人公たち。
読めば読むほどばかばかしく、かつ愛おしくなってくる作品です。

「桜の森の満開の下」

ざっくりあらすじ

平凡ながらもこじんまりと満たされた生活を送っていた主人公。
ある朝、満開の桜の木の下で一人の女と出会ったことをきっかけに、人生は大きく変わっていく。

感想

桜というと皆さんはどんなイメージがありますか?
私はお花見の賑わいを真っ先に思い浮かべます。

しかしこの作品の桜は、「一人で見る桜、早朝の桜」。
そんな桜のひんやりした恐ろしさが根底に流れているような、幻想的な作品でした。

「百物語」

ざっくりあらすじ

日本の伝統的な怪談の会、「百物語」。
会談を100話語り終えると、物の怪が現れるとされているこの会が、現代京都で開かれる。
「怪」は現れるのか、それとも…?

感想

前の4つの作品の登場人物が再び出てきて、「おっ」と嬉しくなりました。
ダメ人間だけど憎めない、つい愛着がわくような人物描写が本当にうまいと思います。

百物語は怪談を語る会ですが、ホラーが苦手な方もあまりご心配なく。
いよいよ何か事件が起きそう、と思った所から数テンポ遅れてやってくる「ヒヤッと」する感覚が絶妙でした。

くわしくはこちら

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